「ほめる」と「認める」の違いと大切さ
「『褒めて伸ばす』とよくいいますが、下手に褒めると達成基準が下がって良くないのでは?」という声を1on1ミーティング研修でよく聞きます。皆さんはどう思われますか?
「褒める」ことの本質とは?
もし全力でやった仕事に対し、上司から「よくできたね」「君も成長したじゃない」など言われたら、どんな気分になるでしょうか。
人それぞれとは思いますが、微妙な「上から目線」に違和感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。
なぜなら褒めることには、少なからず上から下に評価を下す側面が含まれているからです。
そもそも「褒めて伸ばす」ということ自体、「褒めたらやるだろう」「やらせるために、必要なら褒めるか」という発想が潜んでいるのであれば、それは上司がメンバーを「コントロールしよう」とする思いといえます。
ムチはもちろんですが、アメからも同様にメンバーへのリスペクトは感じられません(したがってアドラー心理学では「褒めてはいけない」としています)。
さらには、本心は褒めたくないのに形だけ褒めると、メンバーは敏感にその雰囲気を感じます。
達成の基準が下がることもあるかもしれませんが、それにとどまらず嫌悪感を持ち、むしろモチベーションがダウンする人もいるのではないでしょうか。
褒めるのではなく「認める」
例えば、メンバーがやってくれた仕事が理想の80%の出来だった場合に褒めると、「よく80%もできたね」「80%!すごいじゃないか」のような伝え方になります。
確かに「80%でいいんだ」と達成基準を下げる人もいるかもしれませんし、「褒めたら仕事をすると思っているの? 馬鹿にして……」と冷める人もいそうです。
一方、「認める」の場合は「80%できたね」「80%だったね」のように伝えます。
こちらは肯定面を事実としてニュートラルに伝えています。評価を下していません。
ところで、私たちは本能的に、欠けたところに目がいきがちといわれています。
これを「ゲシュタルトの欠けた円」といいます(図1)。欠けたところに目が行ってしまうため、仕事への評価でも私たちは通常、良かれと思って「20%未達だね」「なぜ20%足りなかったの?」などと言いがちです。
しかし「また足りなかったね」と言われ続けると、人はやる気や自信を失うので「褒めましょう」ということになるのですが、それも前述の通り相手をコントロールしようとする発想です。
一方、「認める」はニュートラル、「今回、80%だったね。何が80%できた要因だろう?」「あと20%は、何を変えればできそうかな?」といったやり取りになります(上下関係ではなく横の関係)。
褒めたくないのに形だけ褒めるのとは異なり、上司も本心を伝えています。
したがって、メンバーも違和感を覚えることなく素直に考えたくなりますし、マイナスの20%ばかりに気を取られることなく、80%の「できたこと」にもフォーカスが当たるので、次へのモチベーションや自信につながりやすくなるのです(図2)。
ところで、心から褒め讃えたいときも褒めてはいけないのか?ということになりますと、それも不自由な感じがします。
アドラーがいっていることはそういうことではなく、背後にある目的が「相手を操作すること(自分の思う通りにコントロールすること)」だった場合、それはすべきではないという意味です。
褒められるならやる、褒めてくれないならやらないという依存関係を生み出す可能性もあります。
もしメンバーが業績を120%達成してくれ、褒めたい時には「ありがとう!助かった!素晴らしいね!」など、心から褒めた方がハッピーではないでしょうか。
無理に褒める前に、日々の関わりの中で認める。
それは対等の関係、横からの接し方です。
十分認めて、その上で心から褒めたいときは褒める。このように整理してみてはいかがでしょうか。
無理なポジティブ・シンキングではなく、「失敗したことで得られた肯定面」を認める
無理なポジティブシンキングとは、「商談失敗… でも次は大丈夫さ!きっとお客様も虫のいどころが悪かったのだ。パアッと飲んで、嫌なことは忘れよう!」のようなことです。
これは、次は大丈夫と言える根拠が全くありません。現実逃避にも等しいものです。
そうではなく、商談失敗という事実はニュートラルに受け止める。その中でも肯定的な見方をしたとき、何が見えるかということです。
断られたお陰で、自分の過信に気づけた。商談のスキルアップに取り組む機会が出来た。お客様のお気持ちにもっと寄り添う大切さに気づかせていただいた。
断られた他の営業パーソンの心の痛みを体験でき、共感できるようになった。など、商談を失敗しなければ得られなかった事実としての肯定面を認めると、成長の機会となり、モチベーションが上がります。
同様に、相手が何か「失敗した」と落ち込んでいる時に、その中で得られる肯定面を事実として認められると、信頼関係が深まり、時に相手は想像を超えるほど成長できたりします。
世界的なアスリートの多くも、うまくいかなかったことの肯定面を認められることで、強みやモチベーションが増大するコーチングを受けています。
人を変えることはできませんが、人に良い影響与え、人が変わりたくなる信頼関係や環境を提供することはできるのです。
一旦受け止める前に、つい反論したくなる時にはどうしたらいい?
1on1ミーティング研修の受講者から「一旦受け止める前に、ついつい反論したりしてしまいます。受け止められるように変わっていくには、そのことを心に留めておくのが一番だとは思いますが、他にも何か方法があれば教えていただきたいです」というご質問をいただきました。
私は、一旦受け止めるとき、そのことを我慢する、飲み込むという方法を選択しないことをお勧めしています。
その異なる考えそのものにフォーカスをするのではなく、「本人的には一生懸命考えたのだろう」「本人的には正しいと信じているのだろう」「何かそう思う事情があるのだろう」ということにフォーカスをし、「あなたはそう考えたんだね」と一旦受け止める。
例えば自分が「野球が最も面白いスポーツだ」と信じていると仮定して、他の人が「サッカーが最も面白いスポーツだ」と信じていたとき、「それはおかしい!」と反論するのではなく、「あなたはサッカーが好きなんですね」と、双方正しいことを一旦受け止めるイメージを持ちます。
あるいは、電車の中で子供が騒ぎ回っているのに注意しない親に対し、いきなり怒りをぶつけるのではなく、例えば「もしかして、子供が騒ぎ回っていることに気づかないほど深刻な悩みに苛まされているのだろうか」などと、その背景に思いを寄せるイメージを持つのです。
一旦受け止めた後は、「どうしてそう考えたのですか?」「もう少し詳しく教えて?」「そんな気持ちだったんだね。聞かせてくれてありがとう。
ただ申し訳ないけど、今回はこんな事情があるから、こう考えてくれると嬉しい」などと、会話を進めていきます。
このように、感情を押し殺して表面的に対応するのではなく、相手の人生に想いを寄せ、お互いに本心で関わり合うことをお勧めします。
【関連情報】
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